事例紹介・コラム

【エグゼクティブのキャリア進化論】 業界を超えて活躍するための秘訣は、掛け算のキャリアにあり - [新事業創出&IPOサポートのプロ] トーマツベンチャーサポート株式会社 アドバイザリーサービス事業部長 木村 将之

PROFILE

公認会計士
早稲田大学ビジネススクール 非常勤講師

一橋大学商学部経営学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修了。2007年3月監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ) トータルサービス部入社。会計監査、M&A、損益改善、組織構築コンサルティング等の各種業務に従事。2010年、トーマツ ベンチャーサポート株式会社の第2創業に立上げメンバーとして参画。200社超のスタートアップの事業計画、成長戦略、資本政策立案、組織構築支援に携わる。2012年より現職。主な書籍に『株式上場ハンドブック(第5版)』中央経済社、『これですべてがわかるIPOの実務』中央経済社など。

国内において圧倒的なIPO実績を誇る有限責任監査法人トーマツ。その勢いを支えるのが、約4年前に社内ベンチャーとして活動を再開したトーマツ ベンチャーサポート株式会社の存在である。数多くのベンチャー企業と大手企業のアライアンスを成功させるなど、企業の架け橋として活躍する同社はビジネス情報のハブであるだけではなく、部長クラス以上の意欲的な人材が行き交う場所でもあるのだ。ポストに安住することなく、新規事業立ち上げや事業改革などのチャレンジングな仕事に挑む人を「イノベーティブ人材」と呼ぶとするならば、いま活躍するイノベーティブ人材とはどんな人なのか? どんな人材が企業や事業を伸ばしているのか? 自らも事業の立ち上げを行ってきたアドバザリーサービス事業部長の木村将之氏に、現場のリアルについて話を聞いた。

新トレンド「掛け算のキャリア」とは?

活躍されている方の最近のキャリアの大きな特徴が「掛け算のキャリア」です。大手広告代理店で大手企業のマーケティング戦略立案の責任者をされた後、ベンチャー企業のCMO(Chief Marketing Officer)を務めた方がいらっしゃいます。一方だけ経験された方は相当数いらしても、どちらも経験した方はほとんどいない。この方はその後、海外事業の立ち上げも経験され、「マーケティング」×「経営」×「グローバル」で、さらに希少価値のある存在となりました。現在では、長い間適任者が見つからなかった外資系企業の日本法人の立ち上げの責任者をされています。もちろん、掛け算の範囲は、ビジネスフィールドだけにとどまりません。ある大学教授は、会計士の資格を取得した後、コンサル会社で勤務し、その後、ベンチャーキャピタルを自ら立ち上げられました。現在では、実業でも成果を残した大学教授として、幅広く活躍されています。これは、「アカデミック」×「実業」の掛け算の例です。「掛け算のキャリア」を持つ方は口々に言います。「いろいろな視点を持つことができるようになった」と。彼らはなぜこのようなキャリアを形成できたのか、それを企業の現状とつなげて考えてみたいと思います。

変えることを恐れない人材の特徴

現代はスピードの時代です。技術革新のサイクルが短期化し、環境の変化も速く、どの企業も新商品・新サービスの立ち上げを急かされている。このような中、変化への対応が重要となっています。やり方を変える、プロダクトを変える、事業を変える、そして時には自分をも変える。もちろんそれは容易なことではありません。経験も実力もある人物が、ある意味、自分を壊すわけですから。では、活躍されている方はなぜそれができるのか。それは、「ミッション」を持っているからです。彼らに話を聞くと、「何のためにこの事業を成し遂げたいのか。自分の使命とは何なのか」驚くほどきちんと整理されている。ベンチャー企業の経営者の多くは、自らが解決したい社会的課題を発信しながら活動しています。また、大企業の事業開発を推進される方も、事業の社会的な意義を熱く語ります。ミッションがあるからこそ、目的のために変化することができる。自分も事業も変えていける。このような時代では、彼らのようにミッションにもとづき変化しつづけることが重要なのではないでしょうか。

ミッション達成に向けて巻き込む力が試される

スピーディーに事業推進を行うためには、自らの手がける範囲を自分の得意な分野に限定し、他の分野はその分野が得意なプレーヤーに任せるべきです。会社によって個別性はありますが、企業内でも分業化が進んでいるため、部署内だけでは人脈、得意な分野に偏りがあるケースが多い。そのため、自らのミッションを社内外に発信し、違った特徴をもつ仲間でコラボレーションすることが重要となります。品質の追求・販路拡大が得意な大企業と、新しいものを創造することが得意なベンチャー企業との提携が注目を集めていることは変化の象徴です。

社内外とのスムーズなコラボレーションのためには、相手との違いを受け入れ協力することが重要です。例えば、大企業とベンチャー企業ではリスクに対する考え方が異なります。大企業は、高品質を追求し慎重に検討を行う傾向があるのに対し、ベンチャー企業は、社会課題解決のスピードを重視する傾向にあります。その際、ベンチャー企業の考え方を否定するのではなく、どのようにすればリスクに十分対応しながらベンチャー企業の望むスピード感で社内の審査基準を通せるのか。自分達のノウハウを提供し、リスクを下げるサポートができないか。ベンチャー企業と一緒になって主体的に向き合うことが重要となります。このような場面において、多様な視点をもたらす「社内外でのさまざまな経験」「掛け算のキャリア」は大きな武器となります。最近では、ベンチャー企業での事業立ち上げを経験された方が大企業の新規事業開発に抜擢され活躍したり、逆に、大企業で事業を開発していた方がベンチャー企業を立ち上げ活躍される例が増えています。

業界を越えて活躍できるエグゼクティブスキルとは

業界を越えて活躍する人材が増えています。彼らに共通する特徴として、「専門性」「事業創造力」「グローバル適応力」が挙げられます。「専門性」について、経営、マーケティング、広報、営業、企画などの機能はどの会社でも必要とされるため、これらのジャンルの圧倒的なプロである方は、業界を越え求められています。次に「事業創造力」ですが、先述のように、変化の急速な現代では、ミッションにもとづき「0から1を生み出す」力が重要になっています。最後に、「グローバル適応力」の重要性です。マーケットの観点から、2030年には、日本の約3人に一人が高齢者となり、GDPはインドに抜かれ、中国とインドだけで世界のGDPの40%を占めると言われています。内需が縮小する中、中国・インドや新興国のシェアをいかに取るかが多くの企業の成長にとって鍵となります。また、技術の観点からも、短期間で新商品・新サービスを立ち上げるために、優れた技術を世界中から見つけ出し、自社に取り込んでいく必要があります。「専門性」「事業創造力」「グローバル適応力」。これらのスキルは、業界だけでなく、国境も越えて活躍できる、普遍的なスキルなのかもしれません。今後は、これらのスキルを兼ね備えた方が、ベンチャー企業を起業したり、大企業で新規事業の立ち上げを行うことが期待されます。

ミッション追求がもたらす幸福

ある大企業の新規事業開発ディレクターの方についてお話しさせていただきます。この方は、事業の立ち上げの指令を受けた際、当初は外部とのアライアンスは考えず、社内だけで事業の立ち上げを行おうと考えていました。ほとんどの方は、リスクの高い仕事を振られると、無難にこなしがちです。しかし、この方は、ミッション達成に向けて懸命に生きるベンチャー企業の経営者の方と接触するうちに、ご自身も思い切ってチャレンジしたいと奮起され、外部とのアライアンスに踏み切りました。自社の事業に誇りを持ち、ミッションを胸に突き進んでいるこの方のまわりには、多くのベンチャー企業をはじめ、他の大企業の新規事業開発責任者など、心強い仲間が大勢集まってきています。この人の力になりたい。そう思わせる力も事業を創造するイノベーティブ人材に欠かせない条件なのかもしれません。ミッションを突き詰めることにより、キャリアや仕事といった枠を越えて、高みを目指す同志、成し遂げる達成感、信頼を集める人間性など、たくさんの貴重なものが得られる。あえて難しいほうにチャレンジすることで、人はいくつになっても成長を続けられるのではないでしょうか?